フィンランドの福祉はラジオを使う
ヘルシンキ中央駅に着くと賑やかな音楽が聞こえてきた。このあたりの音楽ではない。アフリカの音楽に聞こえる。気になったら足を向ける。駅の真横にある空地は、突如、巨大なイベント会場になっていた。
ステージの上では、被りものをしたアフリカの女性が歌を歌っている。周りからは、どこのものとも想像がつかない言語が飛び交う。一体、何のイベントかすらわからない。誰もが忙しすぎて、何のイベントか聞くのさえ憚られる。やっとのこと、このイベントの正体がわかった。ワールドビレッジという、年に一回の何でもあり(というか、この国のイベントは大体何でもありだが)のイベントだった。
何でもありなのだから、デコレーションも創意に富んでいる。服を吊るせば、それなりの雰囲気を醸し出す。洗濯物のように見える『デコレーション』は、アフリカや南米、また、アジアを彷彿させる。人口500万人ほどの国でこれだけの人をまとまって見ることは少ない。だからといって、子供が泣き叫んでいるわけでもなく、いつもと同じように人々はゆったりと歩き回りベビーカーだってちゃんと健在だ。
とにかく世界各国のモノがある。食べ物やその土地のモノを売っている店もあれば、友好を深めよう、支援をしようなどテーマは多岐に渡っている。ポンプが展示してある。おそらくアフリカのどこかの国にポンプを送ろうというものだろうと想像がつく。そこでは、フィンランド語を話すアフリカ人の子供が、無邪気に遊んでいた。
ラジオの音が聞こえた。ラジオをみんなで聞いているのかと思ったら、生中継をしているらしい。ラジオのパーソナリティが座っている。そのパーソナリティは、フィンランドで一躍有名になったロックバンドかと勘違いした。そのロックバンドは、欧州における最大の音楽イベントであるEuro Visionでフィンランド代表になったPertti Kurikan Nimipäivätという知的障碍者だけで結成されたものだ。しかし、その勘違いの為、このラジオの生番組でインタビューを受けることとなった。
二人のパーソナリティの間に座って英語でインタビューを受ける。そのままオンエアされている。打ち合わせも何もない。この国ではそんなことが当たり前に起きる。知的障碍者だって出来る事は幾らでもある。彼らはやりたいと思っているし、できると思っていても機会が与えられないのが普通だろう。
パンクシンドロームという映画で世界的に有名になったロックバンドの歌詞は、精神科施設の食事は豚のえさ、いつかグループホームを爆破してやる!といった過激なものなのに、むしろ面白く感じられる(インタビューでもそう回答して笑いを誘っていた)ようなからっとした明るさがここにはある。知的障碍者である彼らは、Tシャツの文字を誇示して快く写真を撮るのを承諾してくれた。
(このラジオ局は、radiovalo.fi。インターネットで知的障碍者によるプログラムを発信している。)